インバウンド特集レポート

第3回 2014.07.22

タイの日本への旅行ブームは本物だ! タイ人の心に刺さる意外な魅力

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タイからの訪日客が目覚ましい勢いで伸びている。
2年ほど前から始まった訪日旅行ブームに、2013年7月のビザ緩和が後押しをして2014年4月は単月最高の99000人を更新。韓国、台湾、中国についで訪日ランキング4位に。2014年5月まで単月最高を26ヵ月更新中の絶好調なタイ人インバウンド。
この旅行熱は一過性のブームでなくて、これからも続く「本物」だと確信できる。
現地取材やヒアリングを通して検証してみよう

目次:
●ビザ緩和、円安、LCC就航だけじゃない! 人気の要因はコレだ
●タイ人旅行者の心に刺さるポイントとは
●ガイド不足と若者向け&FIT向けの情報発信、タイ人向けおもてなしが課題

 

ビザ緩和、円安、LCC就航だけじゃない! 人気の要因はコレだ

①新規就航路線ラッシュで人気が加速

2012年26万人から2013年は45万3千人と74%の驚異的な伸びをみせたタイの入国者数は、2014年1月~5月で29.4万人、単月での過去最高記録は26ヵ月以上更新している。2014年4月は5連休のソンクラーン休暇や桜鑑賞ツアーもあって単月最高の99000人を更新。韓国、台湾、中国についで訪日ランキング4位とまさに絶好調という表現がぴったりだ(JNTO発表より)。

昨年ビザが緩和されて以来、タイ人観光客は一気に加速した。円安も手伝って増加の一途だったが、5月20日の戒厳令が暗い影を落とすかと思いきや、市民は通常の生活を送っており、訪日旅行に大きな影響はない。

むしろ航空会社の機材大型化やLCCの新規就航による航空座席増加により、ますますの旅客数の伸びが見込まれている。

まず、2013年末に世界最大級の総2階建て旅客機エアバスA-380を成田、関西に就航させたタイのフラッグシップ・タイ国際航空により飛躍的に座席供給量が増加。

 

バンコク中心部のセントラルワールド伊勢丹の前にあるパワースポット・トリムルティの祠。昼夜を問わず多くの人が訪れるが、木曜の夜の21時30分は特に効力があるということで、広場を埋め尽くす人が集まる(6月5日の夜)

 

次にLCCの攻勢が始まり、6月27日にジェットスターが福岡-バンコク(スワンナプーム国際空港)路線を開設。180席のエアバス320型機がデイリーで運航している。

今年9月1日からは、タイ・エアアジアXの成田-バンコク(ドンムアン空港)および関西―バンコク(ドンムアン空港)も就航予定と明るいニュースばかりが続く。

タイの政情不安により訪タイ日本人旅行者の減少した影響で、キャンセルや運休が懸念されたがなんのその。一抹の不安さえも吹き飛ばす形だ。

 

②日本カルチャーの浸透とインセンティブ旅行による訪日体験が個人旅行へ

もともとタイ人のあらゆる生活シーンに日本製品&日本文化が浸透していた。例えば朝起きての歯磨きからシャンプー、電化製品とあらゆるシーンで日本製の商品を利用している。「ドラえもん」や「一休さん」など日本のマンガやアニメなどよく知られているのは周知の事実。
また、日系企業の進出によりタイ全土で5万人といわれる在住日本人、また訪タイ日本人旅行者の影響も大きい。外食が多いタイ人にとって、和食弁当や高級会席料理、居酒屋と最近は特に「日本食」がブームになっている。

書店に並ぶガイドブックは、エリアガイドのほかに「グルメ」や「鉄道旅行」などテーマ毎に百花繚乱の様相である。どうやったら個人旅行でまわることができるか、細かく指南したものが多い。

海外旅行を取扱うテレビ番組も多く、訪日に特化した「MAJIDE JAPAN」や「SUGOI JAPAN」など人気があるという。
タイ人が「日本」や「日本旅行」に接するシーンは本当に多いというわけだ。

さらにタイの訪日熱が高まる理由として、「好調な経済成長に支えられた新たな団体旅行マーケットの増加にある」とタイのイオンクレジット顧問である石亀智氏は語る。

 

社員旅行を海外にする企業の増加

失業率が0.5%と低いタイでは、従業員が企業を選ぶ立場にあり、また法律で「給料を下げる」ことが禁止されている。そのため、雇用者側、特に工業団地を持っている企業は、いかに労働者を確保するかに苦心している。今後のことを考えると「給料を上げる」のは危険なため「ボーナスをたくさん出す」もしくは「社員旅行」などで対応してきた(実際にある日系企業は11ヵ月分のボーナスを出したこともあるそう)

社員旅行は1泊2日のバス旅行が主流だったが、行先を海外にする企業も出てきた。隣国のシンガポールや香港、それから韓国、日本とシフトしてきており、新たな団体旅行マーケットが生まれている。

 

ディラーインセンティブトリップの行先が日本へ集中

2006年ころから自動車や家電、保険といった業界でのディーラー向けインセンティブトリップが盛んにおこなわれるようになってきた。行く先はアジアのみならずヨーロッパなど世界各地へ。しかし欧米では「(タイ人が食べられない)ビーフばかり出てくる」と食の好みが合わなかったり、サービス対応がよくないなどの声が多くきかれた。
対照的に日本は「食が美味しい」「自然も美しい」「人が親切」などの高評価が多かった。そのため、日本旅行を5年に1回行っていた企業が毎年にするなど、日本に集中する傾向をみせている

 

懸賞の特賞が日本旅行

ここ2,3年盛んになってきたのが懸賞に出される旅行。行き先が日本というのがもっともポピュラーになっている。新たな団体旅行マーケットとして見られている。

石亀氏は、もともとJTBタイランドに10年ほど勤務。当初はタイのインバウンド(日本人のタイ旅行)担当であったが、2005年からタイ人アウトバウンドの本格的な立ち上げに携わり、2013年までタイ人旅行の企画・販売に従事していたため、マーケットの急成長ぶりを肌で感じている。

2005、2006年は年に5本ほどであった日本へのこれらの団体旅行が、いまや月20本、年間で200~300本と増えているという。

これらの団体旅行で日本を経験したタイ人は「今度は自分たちで自由に個人旅行したい」と考える場合が多い。
「この訪日の人気は、これからもますます伸びて、衰えることはないと思いますよ。経済がさらに拡大していく中で、今では普通のOLや、タクシーの運転手でもお金を貯めて日本へ旅行ができるほどですから」と石亀氏。

石亀氏が現在顧問を務めるタイのイオンクレジットのカード会員は600万人(そのうちクレジット機能を持つカード会員200万人)。6500万人のタイの人口のなんと約10分の1が所持していることになる。タイローカルのカードとして認知され、日本の企業だというイメージをもつタイ人は少ないという。クレジットカードを作ることができる月収1万5000バーツに満たない人が、月賦で商品を買いたいためにイオンクレジットの会員になる場合が多いそうだが、今後は日本旅行の情報を絡めて出していくことで高所得者層を増やしてきたい考えだ。
会員の旺盛な消費傾向からタイ全体の富裕層、新中間層の増加を見込んでいるという。

 

富裕層の増加が進展

富裕層や新中間層の増加を経済成長の勢いから予感はできるが、実際はどうなのだろう。

タイ情報発信サイト「anngle」では、民間の調査機関ユーロモニターの統計から、タイの富裕層増加についてレポートしている。

2009年時点では可処分所得が1万5000ドル以上の上位中間層、富裕層が全体の17.9%であるのに対し、2015年には30%を超え、2020年には40%強になるという予測が出ている。2020年には、可処分所得が5000ドル以上の下位中間層まで含めると、80%以上が中間層となる。タイ人がますます世界に羽ばたくようになる日は近い。

http://anngle.org/column/maipenrai/thailifestyle03.html

 

タイ人旅行者の心に刺さるポイントとは

それでは、せっかく多く訪れているタイ人旅行者を喜ばせ、満足度をあげるポイントは何だろう。現地の取材やタイでの旅行博、日本で開催されるセミナーや勉強会、日本の商業施設などの取材を基に、タイ人の心に刺さる項目をまとめてみた。

■タイ人旅行者(特に個人旅行者)が日本でしたいことは?

①日本食を食べる
②四季を体感する(自然、景勝地観光):桜、花&雪、キラキラなど
③ショッピング
④日本でしかできない文化体験
この4つのテーマに分けて詳細に見ていこう

①グルメ:タイ人が好む日本食とは

タイ・プーケットの3Dミュージアムで寿司を出している職人の胸元には和食チェーン「Fuji」のロゴが記されている

【好まれる日本食】
寿司、フルーツ(いちご、なし、ぶどう、かき)、日本のお菓子、天ぷら、ラーメン、カニ、牛肉、鉄板焼き、会席料理、お菓子
【好まれない日本食】
冷たいお弁当、牛肉、いかの活き造り



タイ人に好きな食べ物をきくと、必ずといっていいほどあがってくるのが『寿司』。
タイには、「Fuji」「大戸屋」といった和食チェーンや、ショッピングモールのフードコートに和食コーナーがあり、トンカツや牛丼、カレーのチェーン店も進出し、日本の食が街中にあふれている。

そこで出される寿司や和食を本場で食べてみたいという欲求は強く、実際に日本で食べて満足している人がほとんど。
ただし、日本滞在中に会席料理が毎日続くと飽きがくるので好まれない。
食に関しては保守的と考えていいだろう。バンコクで食べたことがある日本食だから、ここまで評価が高い。

牛肉は「神戸牛」「伊万里牛」などブランド名をあげるほど好きな人もいれば、牛肉をまったく食べない人も多い(特に女性)ので、事前のチェックが必要だ。

タイでの食事には、デザートにフルーツがふんだんに出てくる。日本人よりもフルーツの消費量が格段に多い。日本では、上記にあげたフルーツ、特にいちごは甘さが格段に違うと評判だ。日本で購入したフルーツはホテルで食べたり、お土産として大量に持ち帰ることも。それゆえフルーツ狩も人気の体験ツアーとなっている。


タイ・バンコクで最新で最大級のショッピングモール「central embassy」にある「京」というデザートの店。竹炭セットはロールケーキにフルーツ、抹茶ソフトという豪華版。日本円で800円ほどなので安くはない。店はタイ人でいっぱいだった


日本のお菓子は総じて好まれる。『キットカット 抹茶味』や『東京ばな奈』人気は有名だが、「日本のお菓子はなんでも美味しくて大好き」とチョコレートやスポンジ系の菓子を買い込んでいる人を多くみる。

「好まれない物」にあげている「いかの活き造り」だが、これには裏話もある。6月に私が宿泊したバンコクのホテルの支配人は、佐賀・呼子で「いかの活き造り」を出され、あまりに衝撃的で食べられなかったそうだが、自分のスマホで動画を撮影して他のタイ人に何回も見せているとのこと。その度にタイ人たちは驚きの声をあげるが、一度は体験してみたいと思うらしい。

「他人に自慢できる旅の写真、体験」というのは、タイ人の心をとらえるキーワードだ。
次の②のスポットもそういわれている。

 

②日本の四季を象徴する花、雪、キラキラ:写真映えがするスポットを探せ

「自然の風景」を好むのは、中国、台湾などの東アジアやその他の国とも共通する傾向だが、タイ人が特に好むのは「花」「花畑」。花はもちろんタイ人の生活にあふれているが、日本でしか見られない花、その中で写真を撮影するというのが、テンションがあがることのようだ。

桜はもちろん、5月に咲く藤棚の紫の花に囲まれてポートレートを嬉々として撮影するタイ人を何人も見かけた。

日本にあってタイにない雪や、阿蘇の火山など自然風景も大都会居住のタイ人にとっては、美しい風景に映る。

都心部においては、冬季のキラキラ輝くイルミネーションなども恰好の思い出写真スポットにもなる(もちろんバンコクでもクリスマスシーズンのイルミネーションはあるが、装飾の細やかさだったり、コンセプトの多様性など日本が際立っている)

日本の寺社仏閣でいうと、例えば京都では清水寺よりも『伏見稲荷』のように、歴史的価値よりも色鮮やかなスポットの方が好まれている。これは写真に撮影した場合の効果も考えられる。

ただし、タイと日本で共通する点として、幸運を得るパワースポットめぐりを好む。タイの寺院やパワースポットにおいてタイ人はそこならではの方法で祈っている。日本で有名なパワースポットがあれば、そのストーリーを知り、祈願するなどの体験は喜ばれるだろう。このあたりは、東アジアの国々の方とは求めるものが違う。

 

③ショッピング:「日本の製品は品質がいい」伝説にひかれて

東南アジア諸国の中で、一番旅行消費額が多いのはタイである。
買物支出額は平均5万円。

購入率費目別ランキングは
①菓子類
②化粧品、医薬品など
③服、かばん、靴

①菓子類はグルメで先述した通り。
②の化粧品、医薬品は他アジア市場と同様で、資生堂やカネボウといった日本製の化粧品が人気を集めている。
③については、ブランド品も日本の方が安い場合が多い。『ISSEI MIYAKE』のバッグ、『ONITSUKA TIGER』などの靴が人気だが、一般的に靴やかばんは「デザインがきれいで品質がしっかりしている」と認識されている。

5月29日に福岡で開催されたシンポジウムで、タイ国旅行業協会副会長(フライトセンター)のソムチャイ・スリラタナブラバス氏は「タイ人の趣味は”ショッピング”といってもオーバーじゃない。特に女性は」と断言。
タイ人の30代以上のリッチな女性たちも到着したスポットで、ちょっとでも時間があれば、お土産やお菓子を買いに走る。「100円ショップに行けば何でも揃っているし、デザインが細やかでかわいい。フリクションペンなどのステーショナリーグッズも機能的で使いやすい」とあらゆるショッピングシーンが楽しい様子だ。

 

日本ならではの文化体験

「浴衣や着物を着る」というのは、特に女性に好評の体験で、写真を撮影する時間を十分にとってあげると喜ばれる。

「旅館」は日本の文化を体験できるいい機会ととらえているが、畳の上で寝ることに慣れないタイ人も少なくない。和洋室やベッドがある旅館はアピールになるはず。

「温泉体験」は、いくつか注意するポイントがある。タイ現地では海に入る際もTシャツなど服を着たまま入る人が多い。それゆえ、人前で裸になり温泉に入るのに抵抗を感じる人も多い。「家族風呂をすすめる」あるいは浴衣を着用する「砂蒸し風呂」なども一手。

「慣れてしまうと病みつきになって何度も入りたい」という若いタイ人女性もいたが、一般的ではないだろう。
「ご当地の祭りを観る、参加する」体験は、そのときそこでしかできないものなので期待も大きい。福岡の博多祇園山笠の追い山を観るツアーなどは非常に喜ばれていた。

タイ人は概して好奇心旺盛で陽気に旅を楽しむが、真の部分は保守的で、友人や知人の口コミを大変重視する。Facebookなどの情報は、旅行の動機づけに大きくかかわる。それゆえ、写真や動画に最適のスポットについて情報発信することも有効だと思われる。

 

ガイド不足と若者向け&FIT向けの情報発信、タイ人向けおもてなしが課題

前出の石亀氏は、タイ人ガイド不足を懸念する。
タイで日本人をアテンドするタイ人ガイドの日給は500~1000バーツ、対して日本に同行するタイ人ガイドは日給7000B前後とほぼ10倍の給料となっている。タイで日本人へのガイドが不足している状態が続いているそうだが、日本側でも本当はタイ語ガイドを使いたいのに、英語ガイドがついている場合が少なくない。
特に団体の場合はタイ語しか理解できない人もいるので、タイ語ガイドの方が満足度もあがると考えられる。

不足問題をあげれば他の国と同様、繁忙期における航空座席供給や団体バス、宿泊施設の不足も心配される。

さらに若年層に向けての魅力の訴求、情報発信は競合国に比べ、遅れをとっているといわざるを得ない。

中国や台湾といった他の東アジアと同様に、タイ国内のポップカルチャーシーンは「韓流」が人気である。音楽やドラマ、映画は、韓国のものがよく見られている。例えば、日本でも人気の男性グループ「2PM」のメンバーには、タイ人が1人いる。これにより、タイ人は韓国を身近に感じるようになる。
韓国にもLCCが多く運航し、旅行価格も圧倒的に安い。またKTO(韓国観光公社)を中心に積極的にプロモーションを仕掛けている。手ごわい競合である。「韓国に行くより、日本旅行が好きな人が多いよ」と言ってくれるタイ人は多い。
しかし、安心しないで「たゆまぬ努力をしなさい」と言われていると考えよう。

ホームページやFacebookなどのタイ語の情報発信はまだまだ少ない。本気にこのマーケットをとりにいくのであれば、その国の言語で、その国の目線で情報発信をする必要がある。

訪日リピーターのタイ人は「自分が発掘した日本の穴場」をスムーズに旅行することを求めている。
「もっときいたことないような、知られていない(日本の)旅行先はないか」と石亀氏は顧客からよくきかれるそうだ。
2月と8月に開催されるタイの旅行博TITFでも、けっしてメジャーではない地方エリアへどうやっていけるのか、交通アクセスとかかる料金を熱心に問い合わせているタイ人が本当に多い。しかも、かなり広域で動いている。

特にLCCを利用する(若年層の)FIT旅行者は、新ルート、新スポットの情報を常に求めている。「まだまだオンラインで日本旅行の情報が足りなさすぎる」と福岡で会ったタイ人旅行者は嘆いていた。

この要求に応えていくオンライン上の情報発信やDMC(※)の機能こそが、訪日旅行を持続的に活性化する術だと思われる。今一度タイ人個人旅行者の目線にたって、素材や発信の流れを見直すことが必要である。

次回は、「インバウンド先進国タイに学ぶ観光戦略」と題して、タイに見習うべき受入、プロモーションをレポートします。

※Destination Management Company。目的地・開催地におけるあらゆる種類の業務を取扱う専門的能力を有する企業のこと。

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