インバウンド特集レポート

第17回 2015.09.30

外国客の国内ドライブ旅行、本格始動中! ―先行する沖縄、北海道の事例と予約サイトの動向から

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特集レポート

訪日外国客のレンタカー利用が急速に伸びている。大都市圏やゴールデンルートに集中しがちな訪問先の地方への分散化には、二次交通としてのレンタカー利用の促進は有効だ。先行する沖縄県や北海道の受入事例や予約サイトの動向から利用者の特性を解析。今後の課題や見通しを探る。

目次:
羽田空港の外客レンタカー利用が増えている
利用件数全国一は沖縄県
利用の多国籍化が進む北海道
レンタカーのネット予約は富裕層が多い
「インバウンドの実験室」香港

羽田空港国際線ターミナルの到着フロアは、いつも多くの外国客でにぎわっている。レンタカーを予約した外国客が最初に向かうのは、ゲイトに向かって右側にあるカウンターだ。

羽田空港国際ターミナルのレンタカーカウンター
羽田空港国際ターミナルのレンタカーカウンター

 
リムジンバスの発券所の隣に、ニッポンレンタカーやオリックスレンタカー、トヨタレンタカー、Hertz、日産レンタカー、Times Car RENTAL、Europcarの合同カウンターがある。ここで予約の照会をすませると、1階の「乗車レーン」まで歩き、レンタカー会社の用意した車に乗せられ、各社の営業所に向かう。

 

ニッポンレンタカーの外国客向け「ご利用ガイド」(英語版)
ニッポンレンタカーの外国客向け「ご利用ガイド」(英語版)

羽田空港の外客レンタカー利用が増えている

ニッポンレンタカー羽田営業所の佐藤大助サブマネージャーによると「外国客の利用が目立って増えてきたのは、2014年3月30日の国際線の増便の頃から。最近では香港や韓国を中心に毎月70組以上の利用があり、特に1~2月の旧正月のシーズンは香港客が多く、直近ではタイ客も増えている」という。

外国客がレンタカー利用の手続きをする際、パスポートと国際免許証の写しが必要だ。「手続きは10分程度で国内客と変わらない。ただし、外国客は羽田で乗って成田や関空などで乗り捨てるケースも多いので、返却の日時と場所を確認する。乗車前に事故の場合の連絡先や営業所の近くのガソリンスタンドのMAPなどをお渡しする」(佐藤サブマネージャー)。

ニッポンレンタカーサービス販売促進部国際営業課の白井祐子主任は「外客向けのサービスには、24時間対応のカウンター通訳サービス(英中韓タイ語)や多言語化カーナビ(英中韓)、ETCカードのレンタルがある。なかでも重要なのがカーナビの多言語化だ。この2年で急速に普及した。新車を発注する際も必須になっている」と説明する。

ガソリンの給油の間違いは要注意ポイント
ガソリンの給油の間違いは要注意ポイント

 

 

同社の国籍別の利用状況は、1位香港、2位韓国、3位台湾、4位タイ、5位アメリカまたはオーストラリアの順。対前年度比で約2倍増の勢いだ。件数でいうと沖縄県と北海道が多いが、最近では首都圏をはじめ関西や中部地区からの利用も1.5倍に増えているという。

外国客の利用期間は平均約4日、単価も約4万円と国内客より長くて高い。平日利用が多いのも特徴だ。人気の車種は「家族やグループ旅行が多いため、ワゴン車だ。プリウスなどのハイブリッド車やアイサイトの使えるスバル車など、日本オリジナルの車種を選ぶ傾向がある」(白井主任)そうだ。

首都圏における国内客のレンタカー利用は圧倒的にビジネス利用だが、外国客はレジャー利用が中心。最近の若い世代の免許証取得比率の減少で国内市場が縮小していくなか、レンタカー各社は外国客の取り込みを強化している。

OTSレンタカー(中文版)
OTSレンタカー(中文版)

利用件数全国一は沖縄県

外国客のレンタカー利用件数が全国一なのが沖縄県だ。一般社団法人沖縄県レンタカー協会によると、過去2年の県内の外国客のレンタカー利用件数は以下のとおりだ。

2013年度(13年4月~14年3月)
3万6919件(台湾1万1138件、韓国1万1937件、香港1万1670件ほか)
2014年度(14年4月~15年3月)
8万5323件(台湾2万8096件、韓国2万7764件、香港2万3463件ほか)

この1年で2.3倍増の勢いで増えており、国籍別比率は、台湾(33%)、韓国(33%)、香港(27%)で全体の9割を占める。協会関係者によると、この急激な伸びは「沖縄県を訪れる外国客の急増にあり、円安や台湾、韓国、香港などの近隣諸国からのLCCをはじめとした新規就航や増便が相次いだことにある」という。

※沖縄県の統計によると、2014年度に沖縄を訪れた外国客は98万6000人と過去最高で、前年度比57.2%増と全国平均を超えている。国内客も含めた観光客総数が716万9900人(これも過去最高)で、外客比率は約14%と他県に比べて高い。

OTSレンタカーを運営する沖縄ツーリストの中村靖常務取締役は「外国客のレンタカー利用が顕著になったのは11年頃から。今年は前年度比で1.6倍の勢いだ。沖縄は台湾からのフライトが1時間、ソウルから約2時間、香港から2時間半という好位置にあることが大きい」という。

外国人運転用ステッカー(沖縄県)
外国人運転用ステッカー(沖縄県)

 

 

同社の外国客に対するレンタカー利用促進の取り組みは早かった。06年台北事務所を設立し、将来の需要を見越してレンタカー予約の受付を開始。

その後、予約サイトの多言語化を進めると、台湾や香港から繁体字版サイト経由で予約が入るようになった。07年には臨空豊崎営業所に4か国語対応のドライブシュミレーションを設置し、09年には全国初の4か国語対応のカーナビを導入している。

もっとも、外国客のレンタカー利用の急増にともない、県内での事故や渋滞が指摘され始めている。琉球新報2015年6月13日は「2014年度の事故件数は2901件で、事故率は3・4%」(「外国人増で対策強化 県レンタカー協、事故防止へ注意喚起」)と報じている。沖縄タイムス2015年6月16日は、事故の背景に海外と日本の交通ルールの違いがある(「標識読めない、慣習違い…外国客のレンタカー高い事故率」)と指摘する。

中村取締役は「これだけ利用が増えると事故が増えることは予測される。ミラーを擦ったり、交差点で左折や右折のルールを間違えたりといったケースが多い。今後は防止策に力を入れていく必要がある。ただし、外国客がもし事故を起こしても、自動車保険は国内客同様、手厚い安心パックに入っているし、JAFのサポートも充実している」と話す。

前述の琉球新報の記事も「(県レンタカー)協会では本年度から、英語版に加え、繁体字と韓国語版のドライブマップを新たに作製、運転上の注意点や県内の事故多発交差点などを紹介し、注意喚起を図っている」と事故防止の取り組みを紹介している。また外国客の運転する車を一目で判断できるようにステッカーも導入された(沖縄タイムス2015年8月8日)。

全国に先駆けて外国客のレンタカー利用が進む沖縄県だけにさまざまな課題も出てくるが、その解決にあたる官民の取り組みは、これから全国で受入態勢を整備していくうえでのひな型になるだろう。

中村取締役は、今後レンタカー事業者が取り組むべき方向性についてこう語る。
「これからはただ車を貸すだけでなく、お客様に地元で喜んでお金を落としてもらうしくみをつくらなければならない。当社ではカウンターでWifiルーターの貸出や県内の主要観光施設のチケットの販売を行っている。

また『沖縄もっとトリップ 北部東海岸エリア編』(英中韓)というドライブマップを作成し、国道58号線の走る西海岸だけでなく、東海岸にも足を伸ばしてもらうよう働きかけている。最近では、これまで少なかった外国客が東海岸の泡瀬漁港(沖縄市)の海鮮食堂にさしみを食べに行く話などをよく聞くようになった」。

『沖縄もっとトリップ 北部東海岸エリア編』
『沖縄もっとトリップ 北部東海岸エリア編』

レンタカーという二次交通の利用促進は、これまで外国客が訪れることのなかった場所への新たな動線を敷くうえで直接的な効果を生んでいるようだ。

利用の多国籍化が進む北海道

「北海道ドライブまるわかりハンドブック」
「北海道ドライブまるわかりハンドブック」
http://www.hkd.mlit.go.jp/topics/toukei/chousa/h20keikaku/handbook.html

 

 

沖縄県に次いで外国客のレンタカー利用件数の多いのが北海道だ。観光スポットが広域に点在する北海道では、国内客同様、外国客にとってもレンタカーは不可欠な移動の足になりつつある。

一般社団法人札幌レンタカー協会によると、北海道における外国客のレンタカー利用件数は、2014年度(14年4月~15年3月)で2万4243件。15年度は毎月約80%増と伸びており、国籍別にみると、トップが香港で9579件(全体の約40%)を占め、次いで台湾4497件、シンガポール1948件、韓国1892件、タイ1395件、オーストラリア1052件、ヨーロッパ1051件、アメリカ814件と続く。

沖縄県と比べると、総件数は3分の1以下だが、シンガポールやタイ、欧米系の利用も多く、多国籍化が見られるのが特徴だ。

北海道における外国客のレンタカー利用促進のための本格的な取り組みは、07年9月台湾客の国内での運転が可能となった頃から始まっている。

同年4月に北海道外国人観光客ドライブ観光促進連絡協議会が設立されたが、実はその前年の06年12月、喜茂別町で外国人ドライバーの交通死亡事故が発生している。冬場の凍てついた道路を運転することにアジア客が慣れていないのは当然で、雪道の安全運転の啓発は欠かせない。こうした北海道特有の事情から、外国客に安心・安全にドライブ旅行を楽しんでもらうための道独自の調査やノウハウの啓蒙が進んでいる。

その成果のひとつが、2009年国土交通省北海道開発局が作成した「北海道ドライブまるわかりハンドブック」(日英中(繁・簡)韓)だ。日本の交通ルールや北海道で起こりうるトラブルとその対応をわかりやすく解説している。

⇒ 外国人ドライブ観光客 誘致・受入事例解説集

さらには、事業者向けに北海道の主要なレンタカー利用客である台湾、韓国、香港、シンガポールの来道目的や運転習慣の違いなどを分析している「外国人ドライブ観光客 誘致・受入事例解説集」もある。

たとえば、同解説集の台湾の項には「日本の“止まれ”の標識は国際基準と異なり、理解されにくい。台湾では、制度上は一時停止の義務はあるものの、見通しがよい場合は一時停止をする車はほとんどいない(踏み切りについても同様。台湾の高速道路では、走行車線・追越車線の区別がない。矢印信号は台湾にはないため、とまどってしまう)」とある。一方、香港の項には「日本と同じ左側通行であるが、赤信号でも左折フリーの国である。横断舗装以外では「歩行者優先」というルールはなく、車が優先される。一般道路の最高時速が70㎞であるためか、北海道をドライブして「スピードが遅すぎる」と感じるドライバーもいる」。この知識を頭に入れておくと、外国客を送り出すときに、ひとことアドバイスを添えることができるだろう。

こうした北海道の取り組みは、今後外国客のレンタカー利用が増えるであろう全国各地の関係者にとって貴重な情報源となるはずだ。

レンタカーのネット予約は富裕層が多い

Tocoo!(中文版)
Tocoo!(中文版)
http://www2.tocoo.jp/cn

 

 

今日、訪日外国客によるエクスペディアやBooking.comなどの海外ホテル予約サイトの利用が普及しているが、同じことはレンタカー予約の世界でも起きている。国内の各レンタカー会社は、それぞれ自社サイトの多言語化を進めているが、やはり各事業者の情報を横断的に閲覧でき、利用者のニーズに直結したサービスを迅速に提供する予約サイトが重宝されるのは当然だろう。

なかでも先行しているのが、レンタカー予約サイトのTocoo!である。

同サイトを運営しているのは、有料会員制の宿泊予約サイトを手がけるクーコム株式会社だ。同社は2000年代の早い時期から海外向けのレンタカー予約サービスを始めている。

同社の牛田隆夫取締役によると「外国客のレンタカー予約が増えてきたのは08年くらいから。11年の震災の前には海外が国内を逆転していた。国籍でいうと、東南アジアがほとんど。香港、台湾、韓国、シンガポール、タイなどだ。売上は前年比88%増で、60カ国・地域の利用者のうち、半分以上が中国語圏。07年9月に台湾客の運転が可能になったことを機に中文版を立ち上げ、その後すぐにハングル版を始めたことが奏功した」という。

利用エリアは、全体の3割は北海道だが、最近は関西国際空港や中部国際空港からの利用も多い。雪を見るために、名古屋から高山や白川郷に向かう人が増えているという。「アジアの交通事情は一般の日本人には厳しく、まず運転できないと思うが、逆に彼らにすれば日本の運転は楽勝」(牛田取締役)なのだという。

外国客の利用状況は国内客とは大きく違う。「1回あたりのレンタル料金は国内客の3倍近い。外国客は国内客より利用日数が長く、乗り捨てが多い。なかには札幌で借りて大阪で返す人もいる」(牛田取締役)。

客層は圧倒的に旅慣れた富裕層だ。顧客アンケートによると、年収1億円以上も多く、約半数が年収1000万円以上という。「だから、単価が高い。彼らは車のグレードがよければ喜んで利用する。アルファード(トヨタの大型ミニバン高級車)とエルグランド(日産のワンボックス型ミニバン)があれば、確実にアルファードを選ぶ。当社の海外利用客の7割はリピーターだ」(牛田取締役)。

牛田取締役はレンタカー利用促進の意義をこう語る。「いま大都市圏には外国客は多いが、伊豆半島や房総の先にはまだ来ていない。東京のホテルは潤っているが、伊豆半島はそうではない。我々の役目は、そこにお客さんを送ることだ」。

業界の動きを先導する同社の取り組みは要注目だ。

 

「インバウンドの実験室」香港

外国客のレンタカー利用が急増する背景には、継続的に続けられるプロモーションの成果もある。日本政府観光局(JNTO)香港事務所では、すでに2012年から香港市場に特化したレンタカーと鉄道利用促進のためのプロモーション『a different Japan-Rail & Drive』を始めている。

前香港事務所長の平田真幸(現海外プロモーション事業部)担当部長は、『a different Japan-Rail & Drive』が生まれた事情をこう語る。「私が香港に赴任した12年、震災後の訪日客の落ち込みをリカバーするための施策が求められていた。リピーター8割、訪日10回以上が20%超という成熟市場の香港で、韓国や台湾、タイ、シンガポールなどの競合国と差別化して何ができるか。そこで、新しい観光魅力として打ち出したのが、ご当地グルメやショッピングシーンを盛り込みながら、シーズンごとに日本ならではの自由気ままな旅行スタイルを体験してもらう全国各地のドライブ旅行と観光列車のPRと商品化の支援だった」。

その後、香港の訪日旅行市場は急ピッチで回復し、2014年は92万5975人(前年比24.1%増)と国別でも4位となった。レンタカー付きのツアー商品を手がける旅行会社も増え、観光列車も目玉ツアーになっている。関西や九州、沖縄などの「訪問先の分散化(多様化)」も他の国・地域に先駆けて実現されている。「香港はインバウンドの実験室。新しい訪日旅行シーンは香港から生まれる」(平田部長)といわれるのはそのためで、市場の先導役として常に期待されているのである。

『a different Japan-Rail & Drive』のキャンペーンイメージ

 

外国客のレンタカー利用は、縮小する国内市場を補うことで事業者にとっての期待となるだけではない。訪日客の地方への分散化を促進し、全国に張り巡らされた道路インフラの維持を図り、さらには未来のユニバーサルな交通システムへの転換を進めるうえでの重要なステップでもある。今後、先行する沖縄県や北海道を追う、さらなる動きが各地で起こることを期待したい。

※本稿において今年訪日外国人数のトップを走る中国本土客について触れていないのは、現在国内でのレンタカー利用はできないためだ。日本で運転できる国際免許証の条件として1949年のジュネーブ条約に基づき発行された形式でなければならないからである。なお同様に、スイス、ドイツ、フランス、ベルギー、スロベニア、モナコ、台湾も同条約に基づく国際免許証を発行していないが、これらの国は自国の免許証と日本語翻訳文の同時提示で運転が可能になる。

Text:中村正人

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