インバウンド特集レポート

大都市圏を中心に増殖中!中国系「越境白タク」の問題点を追跡(後編)

2017.06.26

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羽田空港や成田空港、そして大都市圏を中心に、人知れず中国系の白タクが増殖している。その背景には、日本に先んじて広く普及した中国の配車アプリサービスが、日本の国内ルールを無視して横行していることにある。前編では、沖縄での白タクの事例を紹介するとともに、中国で普及している配車アプリを紹介。中編 

羽田空港や成田空港、そして大都市圏を中心に、人知れず中国系の白タクが増殖している。その背景には、日本に先んじて広く普及した中国の配車アプリサービスが、日本の国内ルールを無視して横行していることにある。前編では、沖縄での白タクの事例を紹介するとともに、中国で普及している配車アプリを紹介。中編では、中国の配車アプリが提供する訪日客向けのサービスを詳しく説明。後編では、蔓延する違法な白タクを解消するために日本がとるべき施策について考える。 [Text:中村正人]

 

国内の日本人市場と訪日外国人市場、それぞれのライドシェアを分けて考える

では、日本の国内事情にふさわしいライドシェアのあり方とは何だろうか。

ここでは、国内の日本人が利用するライドシェアのあり方と訪日外国人市場における運用を分けて考えるべきだろう。双方のニーズのありようや普及のための条件は異なっている点が多いからだ。

中国でこれほど配車アプリサービスが普及した背景には、モバイル決済の高い普及率がある。ライドシェアの普及に欠かせないのは、モバイル決済なのである。なぜなら、配車アプリサービスを導入した日本のタクシー会社にとって、予約客のノーショー(ドタキャン)を防止するするには、それが決め手になるからだ。日本ではまだ少し時間がかかるかもしれない。

国内向けには、まず地方でのライドシェアを進めることだろう。迅速に使える利便性を追求するというより、公共の足として普及させる取り組みはすでに各地で始まっているが、ニーズはあっても、もうひとつ盛り上がりに欠けているかもしれない。であれば、過疎地の住民のためだけでなく、地方の観光地に足を延ばしたい外国人観光客へのサービスも提供することで普及させることはできないだろうか。

 

訪日外国人向けのライドシェアのあるべき姿とは

一方、訪日外国人向けのあるべきライドシェアを考えるためには、現状の白タクによる違法状態の取り締まりから逃げてはならないだろう。

冒頭で中国系白タクの存在を指摘した一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長は、この問題を解消するためのこんな提案をしている。

「これは皮肉な言い方かもしれないが、白タク暗躍で見えてきたのは、中国人観光客の個人化にともなう移動ニーズの実態だ。これを駆逐するためにも、税金を使ってでも、彼らのための格安の足の手配を官民が協力して用意することはできないか。

いま地方へ外国人観光客を呼び込むのに最も効果的なのは、交通インフラの改善だ。ひとつの手段として、地方への外国人向けの無料バスを走らせたらどうか。もちろん、国内のバス会社に共同でやってもらえばいい。こういうことに税金を使うほうが、PRに使うより意味があるのではないか」

これまでみてきたとおり、中国の配車アプリサービスは、大都市圏のみならず、地方の観光地へ中国客を乗せたドライブサービスも展開している。アプリサイトのリストに載っている観光地はニーズの高い有名観光地が多いが、個別では、あまり多くの外国人観光客が訪れていない地域へのドライブサービスもあるだろう。この不届きな違法サービスも、中国客を地方へ分散させる足となっていることは否定できないのだ。彼らが市場ニーズに直結したサービスを提供しているのは確かなのである。なんという皮肉なジレンマだろう。

観光客のニーズに対応するサービスの提供が必要

団体から個人へと移行した中国人観光客の移動のニーズを正確に捕捉することは簡単ではない。それゆえ、我々は彼らのニーズに即応したサービスを提供できずにいる。そのため、すでに自国で定着したシステムを持つ中国の配車アプリサービスは、日本でこそ優位性を発揮し、好んで利用されているのだ。

そうである以上、彼らの違法営業をやめさせるためには、空港での摘発強化に加え、中国客のニーズに対応した代替サービスを提供することが必要になるだろう。原則とルールを決めて、違反する者をきちんと取り締まる。これが第一歩だが、それだけでは不十分で、市場を動かすためのインセンティブを用意することも不可欠なのだ。

たとえば、中国配車アプリサービスで定番となっている成田空港や羽田空港からの都心への外国客向けのワゴン車による送迎サービスで、彼らの提供する現行に近い価格帯を実現させることはできないだろうか(ちなみに、DingTAXIの場合、成田空港から都内へは16500円、羽田からは9500円)。外国客が利用しやすい決済サービスの構築も必要になる。

top

訪日外国人の増加は、我々の目の届かない領域でさまざまな不測の事態を引き起こしてきた。その実態を正しく把握したうえで、実情に合わせた対応策を用意することが求められている。

前述の王会長はいう。

「日本のインバウンド市場の問題は、ヤミ営業が野放しのせいで、本来お金が落ちるべき正規の事業者や地元にお金が落ちてこないこと。市場の変化に日本側の対応が追いつかず、すべてが後手後手となり、そこにヤミ業者が暗躍するすきを与えてしまう。その結果、一般の日本人も外国人観光客の本当の恩恵を知らないでいる。それは買い物による消費だけではない。もっと多くの恩恵があるはずなのに、いちばん損しているのは日本の社会である」

この率直かつ真摯な提言に、我々はどう応えていくべきだろうか。

 

筆者プロフィール:
中村正人(なかむら・まさと) 
参与観察家。出版社勤務を経て2004年独立。インバウンド関連ビジネス全般を扱う株式会社エイエスエス所属。専門はインバウンド・ツーリズム。主に参与観察しているフィールドは、訪日外国人旅行マーケットの動向

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著書:

『ポスト爆買い』時代のインバウンド戦略(扶桑社刊)
インバウンドの明暗を統計データや観光業界の長期的観察から読み解いた一冊。外国人観光客をめぐるストレスや葛藤の解決策が満載

ブログ:

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

 

 

>では、中国の配車アプリが提供する訪日客向けのサービスを詳しく説明。後編では、蔓延する違法な白タクを解消するために日本がとるべき施策について考える。 [Text:中村正人]

 

国内の日本人市場と訪日外国人市場、それぞれのライドシェアを分けて考える

では、日本の国内事情にふさわしいライドシェアのあり方とは何だろうか。

ここでは、国内の日本人が利用するライドシェアのあり方と訪日外国人市場における運用を分けて考えるべきだろう。双方のニーズのありようや普及のための条件は異なっている点が多いからだ。

中国でこれほど配車アプリサービスが普及した背景には、モバイル決済の高い普及率がある。ライドシェアの普及に欠かせないのは、モバイル決済なのである。なぜなら、配車アプリサービスを導入した日本のタクシー会社にとって、予約客のノーショー(ドタキャン)を防止するするには、それが決め手になるからだ。日本ではまだ少し時間がかかるかもしれない。

国内向けには、まず地方でのライドシェアを進めることだろう。迅速に使える利便性を追求するというより、公共の足として普及させる取り組みはすでに各地で始まっているが、ニーズはあっても、もうひとつ盛り上がりに欠けているかもしれない。であれば、過疎地の住民のためだけでなく、地方の観光地に足を延ばしたい外国人観光客へのサービスも提供することで普及させることはできないだろうか。

 

訪日外国人向けのライドシェアのあるべき姿とは

一方、訪日外国人向けのあるべきライドシェアを考えるためには、現状の白タクによる違法状態の取り締まりから逃げてはならないだろう。

冒頭で中国系白タクの存在を指摘した一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長は、この問題を解消するためのこんな提案をしている。

「これは皮肉な言い方かもしれないが、白タク暗躍で見えてきたのは、中国人観光客の個人化にともなう移動ニーズの実態だ。これを駆逐するためにも、税金を使ってでも、彼らのための格安の足の手配を官民が協力して用意することはできないか。

いま地方へ外国人観光客を呼び込むのに最も効果的なのは、交通インフラの改善だ。ひとつの手段として、地方への外国人向けの無料バスを走らせたらどうか。もちろん、国内のバス会社に共同でやってもらえばいい。こういうことに税金を使うほうが、PRに使うより意味があるのではないか」

これまでみてきたとおり、中国の配車アプリサービスは、大都市圏のみならず、地方の観光地へ中国客を乗せたドライブサービスも展開している。アプリサイトのリストに載っている観光地はニーズの高い有名観光地が多いが、個別では、あまり多くの外国人観光客が訪れていない地域へのドライブサービスもあるだろう。この不届きな違法サービスも、中国客を地方へ分散させる足となっていることは否定できないのだ。彼らが市場ニーズに直結したサービスを提供しているのは確かなのである。なんという皮肉なジレンマだろう。

観光客のニーズに対応するサービスの提供が必要

団体から個人へと移行した中国人観光客の移動のニーズを正確に捕捉することは簡単ではない。それゆえ、我々は彼らのニーズに即応したサービスを提供できずにいる。そのため、すでに自国で定着したシステムを持つ中国の配車アプリサービスは、日本でこそ優位性を発揮し、好んで利用されているのだ。

そうである以上、彼らの違法営業をやめさせるためには、空港での摘発強化に加え、中国客のニーズに対応した代替サービスを提供することが必要になるだろう。原則とルールを決めて、違反する者をきちんと取り締まる。これが第一歩だが、それだけでは不十分で、市場を動かすためのインセンティブを用意することも不可欠なのだ。

たとえば、中国配車アプリサービスで定番となっている成田空港や羽田空港からの都心への外国客向けのワゴン車による送迎サービスで、彼らの提供する現行に近い価格帯を実現させることはできないだろうか(ちなみに、DingTAXIの場合、成田空港から都内へは16500円、羽田からは9500円)。外国客が利用しやすい決済サービスの構築も必要になる。

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訪日外国人の増加は、我々の目の届かない領域でさまざまな不測の事態を引き起こしてきた。その実態を正しく把握したうえで、実情に合わせた対応策を用意することが求められている。

前述の王会長はいう。

「日本のインバウンド市場の問題は、ヤミ営業が野放しのせいで、本来お金が落ちるべき正規の事業者や地元にお金が落ちてこないこと。市場の変化に日本側の対応が追いつかず、すべてが後手後手となり、そこにヤミ業者が暗躍するすきを与えてしまう。その結果、一般の日本人も外国人観光客の本当の恩恵を知らないでいる。それは買い物による消費だけではない。もっと多くの恩恵があるはずなのに、いちばん損しているのは日本の社会である」

この率直かつ真摯な提言に、我々はどう応えていくべきだろうか。

 

筆者プロフィール:
中村正人(なかむら・まさと) 
参与観察家。出版社勤務を経て2004年独立。インバウンド関連ビジネス全般を扱う株式会社エイエスエス所属。専門はインバウンド・ツーリズム。主に参与観察しているフィールドは、訪日外国人旅行マーケットの動向

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著書:

『ポスト爆買い』時代のインバウンド戦略(扶桑社刊)
インバウンドの明暗を統計データや観光業界の長期的観察から読み解いた一冊。外国人観光客をめぐるストレスや葛藤の解決策が満載

ブログ:

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

 

 

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