インバウンド特集レポート

アセアン第二陣、フィリピンとベトナム 驚異的な伸び率を誇る訪日旅行市場でいま起きていること

2015.01.28

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特集レポート

フィリピンとベトナムの訪日数が急激に伸びている。この勢いは、どこまで続くのか?
昨年の訪日外国人旅行者数1300万人突破で弾みのつく日本のインバウンド業界。アセアン統合の2015年、フィリピンとベトナムの市場動向を探る。

目次:
●フィリピン客の特徴は英語を話すこと、ファミリー旅行
●訪日ベトナム人が増えた3つの理由
●大阪を旅する「ベトナム人気歌手」のPV撮影が話題に!
●反中が「空前の日本語ブーム」に向かわせた?
●神戸で神戸牛が重要! 訪日ベトナムツアーの9割はゴールデンルート
●ベトナム客に留意するポイントはこれだ!

2014年の訪日外国人旅行者数1300万人突破で弾みのつく日本のインバウンド業界。

年末から年初にかけて関係者に話を聞いていると、
中国、台湾、香港など訪日客の半分近くを占める中華圏市場への過度の偏りではなく、
アセアンやオセアニア、欧米を含めた市場の分散化を期待する声が強いようだ。

なかでもここ数年、観光ビザの緩和で訪日客の増えているアセアン市場への関心は高い。

規模でいえば訪日客全体の1割強と、中華圏に比べればまだ小さいものの、タイを筆頭にマレーシア、シンガポールなど、すでにノービザ化が実現している国々も含め、基本的に「親日的」とされるアセアン市場に対する関係者の期待が大きいためだ。

2015年はアセアン統合の年。
さらなる地域の経済発展が予測されるなか、昨年訪日数で中国に次いで高い伸びを見せたのがフィリピン(70.0%増)とベトナム(47.2%増)だ。
アセアン第二陣ともいうべき両国の市場動向は他の国々と比べてどうなのか。新しい動きを中心に報告したい。

フィリピン客の特徴は英語を話すこと、ファミリー旅行

1月20日に発表された日本政府観光局(JNTO)のリリースによると、
2014年に中国に次ぐ高い伸びを示したフィリピンの訪日客数は、
前年度比70.0%増の18万4200人。
フィリピン市場の特徴をJNTOは以下のように解説している。

「フィリピンの訪日旅行者数は184,200 人で、10 年ぶりに過去最高を記録するとともに、前年比70.0%増と東南アジア市場で最も高い伸率を示した(これまでの過去最高は2004年154,588 人)。月別では4 月から6 月、9 月から12 月で、各月の過去最高を記録した。査証緩和に加え、円安の進行、羽田空港の国際線発着枠の拡大に伴う増便や新規就航など、航空座席供給量が大幅に増加したことや、旅行会社などとの継続的な共同広告の実施、旅行博でのプロモーションが、観光需要を大きく後押しし、2014 年の伸びに寄与した。なお、9 月30 日より、フィリピン国民に対する数次ビザの大幅緩和が実施された」。

ポイントは「東南アジア市場で最も高い伸率」と「10 年ぶりに過去最高を記録」したことだろう。
フィリピン市場を考えるうえで在日フィリピン人の存在は大きい。2013年で約21万人と中国、韓国に次いで多く、親族訪問に限らず、日本とフィリピンの人的往来は以前から盛んだったからだ。

フィリピンから日本に乗り入れている航空会社も多彩で、日本航空や全日空、フィリピン航空だけでなく、LCCのセブパシフィック航空やジェットスター航空、ジェットスター・アジア航空がある。さらには大韓航空やキャセイパシフィック航空などの経由便も利用されてきた。

アセアン各国の訪日旅行を扱う株式会社ティ・エ・エスの下川美奈子さんは

「(14年に訪日客が大幅に伸びた理由は)ビザが取りやすくなったことが大きい。
数年前までフィリピンでは韓国旅行がブームだったが、
それがひと段落して、
いまは日本旅行がブームになってきた」と語る。

では、フィリピンの訪日旅行の実態はどのようなものなのか。

下川さんによると
「団体ツアーはほぼ東京・大阪のゴールデンルートのみ。
ただし、フィリピンの場合、全体でみると団体とFIT(個人客)は半々で、アセアンの中ではFITの存在感が大きい市場のひとつといえる。
もともとフィリピンには中小の旅行会社が多く、不特定多数の人たちが参加する募集型ツアーよりも家族単位のグループが多く、個人手配の旅行に近い」という。

フィリピン客の特徴は英語を話すことだ。

そのため、「欧米客と同じJTBのサンライズツアーやグレーラインのバスツアーに参加することも多い。国内移動も自分たちで新幹線に乗る」。

物怖じすることなく欧米客と一緒にバスツアーに出かけるのが、フィリピン人旅行者なのだ。その意味で彼らは英語圏の旅行者に近いといえそうだ。

訪日ベトナム人が増えた3つの理由

一方、フィリピンに次いで伸び率の高かったベトナムの訪日客数は14年に初めて10万人を突破し、前年度比47.2%増の12万4300人となった。

訪日ベトナム客が増えた理由について、JNTOは以下のように分析している。

「ベトナムの訪日旅行者数は124,300 人で、3 年連続で過去最高を記録し、初めて10 万人を突破した。月別では、2012 年1 月以降、36 カ月連続で各月の過去最高を更新し続けている。査証緩和に加え、円安の進行に伴う訪日旅行の価格低下、羽田便の増便をはじめとした座席供給量の増加、従来よりも手頃な価格での航空券の販売、共同広告、有名人歌手を起用したミュージックビデオの制作およびイベント実施、ベトナム語よる情報発信強化などのプロモーションが、増加要因として挙げられる。また、観光客だけでなく、留学生、技能実習生なども増加傾向にある。なお、9 月30 日より、ベトナム国民に対する数次ビザの大幅緩和が実施された」。

このうち、「査証緩和」や「円安の進行」など各国に共通する事項を除くと、
ポイントは
「羽田便の増便をはじめとした座席供給量の増加」
「有名人歌手を起用したミュージックビデオの制作およびイベント実施」
「ベトナム語よる情報発信強化」
「留学生、技能実習生なども増加傾向」
などか。

それぞれ具体的にみていこう。

まず航空座席供給量については、
14年7月の羽田空港の国際線枠の拡大に伴い、ベトナム航空のハノイ・羽田線、ベトナム中部都市ダナンから初の成田線などが新規に就航。確実に拡充している。

この年末年始、関西空港にベトナムのLCC・ベトジェット航空のチャーター便が初就航したニュースも、この市場を知るうえでなかなか興味深い。

同エアラインは、定期便が就航する最初の便で機内に水着やドレス姿のキャンペーンガールを同乗させ、ダンスを披露するなど、およそお堅い社会主義国とは思えないサービスが話題となっているからだ。


ベトジェット航空の機内で行われる就航記念イベント

ベトジェット航空の佐藤加奈さんによると、「2011年12月に運航を開始したベトナム第2のエアラインで、初めてのLCC。現在、国内16路線、国際線もタイやシンガポール、カンボジア、台湾、韓国などに運航している」。躍進著しい民営の新興エアラインなのである。

ベトジェット航空
http://www.airinter.asia/

日本への定期便の運航は、15年1月現在未定だが、チャーター便を運航する計画がある。「今後、ベトナムからの訪日客は必ず増えると思う。ベトナム人は親日的で、何より平均年齢が27歳と若い国」と佐藤さんは期待をこめる。

大阪を旅する「ベトナム人気歌手」のPV撮影が話題に!

ベトナムの若さという意味では、「有名人歌手を起用したミュージックビデオの制作およびイベント実施」も気になるところだ。
これは昨年9月、ベトナムの人気歌手ヌーフックティン(Noo Phước Thịnh)さんの新曲のプロモーションビデオの撮影が大阪で行われたことを指している。

ヌーフックティンさんの新曲『be together forever』PV(動画)
http://www.tiin.vn/chuyen-muc/nhac/noo-phuoc-thinh-tung-mv-quay-o-nhat-ban-thach-thuc-son-tung-m-tp.html

ストーリーは、関西空港に降り立ったヌーフックティンさんが偶然知り合った日本の女の子に大阪をデート感覚で案内してもらうという設定。ロケ地としては、梅田スカイビルや大阪城、道頓堀、通天閣などが登場する。撮影には、ビジット・ジャパン事業の一環として日本政府観光局や地元大阪観光局が協力した。

PV制作を担当した大阪のイベント運営会社の担当者によると「ベトナムの人気歌手の新曲のPV撮影のロケ地に大阪を選んだことは、訪日促進プロモーションにつながっていると思う。昨年10月26日にホーチミンで開催された日越交流イベント『ジャパンデー2014』の会場でもこのPVは流された」という。

日本情報があふれるタイなどに比べるとまだこれからとはいうものの、ベトナムでは現地向けのベトナム語のフリーペーパーの発行が数年前からすでに始まっている。「きらら」は隔月刊の若いベトナム女性向けのライフスタイルマガジンで、ホーチミンを中心に5万部を発行。訪日旅行を喚起するさまざまなコンテンツを発信している。

「きらら」ウエブサイト
http://www.kilala.vn/cam-nang-nhat-ban.html

平均年齢27歳というこの国が今後、どんな消費シーンを見せていくのか、楽しみだ。

 

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