インバウンド特集レポート

日本の聖地巡礼に注目する訪日外国人 ~欧米富裕層も訪れる四国のお遍路巡り~

2017.11.27

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海外旅行の際に、その国の宗教的な意味合いを持つ場所や施設を訪れることは、観光の王道だ。
日本では、赤い鳥居が印象的な京都の伏見稲荷大社が、トリップアドバイザーの人気ランキングで1位を獲得、日本で宗教的な意味合いを持つ場所が、観光コンテンツとしても重要な役割を担いつつある。
Part2(本編)では、四国を一周ぐるりと囲むように点在する弘法大師空海ゆかりの八十八ヶ所の霊場の巡礼で有名な「四国遍路」のインバウンドの取り組みを紹介する。

過去の記事:
Part1:日本の聖地巡礼に注目する訪日外国人 ~わずか5年で外国人が25倍になった熊野古道の取り組み~

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「四国遍路」を目的に、外国人がやってくる?

 「現在、多くの外国人がインターネットやメディアを通じて、四国遍路をに関する情報を収集しているようで、四国遍路をする外国人観光客は確実に増えています」。

そう答えるのは、徳島大学で外国人による四国遍路の研究をするカナダ人のデビット・モートン先生だ。各地の施設の統計調査や、実際に四国遍路に訪れた外国人に聞き取り調査を行っている。

例えば、四国遍路に関する情報収集や情報交換の場として知られる香川県さぬき市に位置する「前山おへんろ交流サロン」には、入場されたお遍路さんが記入する名簿帳がある。2007年は、約70名の外国人が記帳していたが、2012年ではその倍を超える150名、そして2015年には400名もの外国人が記帳し、急伸した。

お遍路の移動手段には、大きく分けて乗り物を利用するケースと、徒歩での移動の2種類がある。後者の徒歩での遍路で、八十八カ所まわりきることを「結願(けちがん)」と呼び、達成すると「NPO法人 遍路とおもてなしネットワーク」から遍路大使の称号が与えられる。外国人も年々増加傾向で、この称号を手にした外国人は、2006年には34名だったが、2015年は184名まで伸びた。

 

「日本文化の体験」から「人生の転換のため」まで多様化する遍路のニーズ

なぜ、外国人観光客は、四国遍路に魅力を感じるのだろうか。モートン氏が行った聞き取り調査によると、お遍路する理由について以下の答えが返ってきたという。

「仏教や空海に関心がある」「日常生活から抜け出したい」「お接待を経験したい」「人と出会うため」「地元の文化を経験するため」「両親の供養のため」「人生の転換のため」など。全般にスピリチュアルなテーマが多いという。

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「ただし、四国を旅する外国人観光客の中で、巡礼をする人はまだまだ少数派です」。

香川県の高松にオフィスを構える株式会社穴吹トラベルのインバウンド担当者はそう話す。穴吹トラベルでは、四国を中心に関西圏を含めたエリアのランドオペレーターとして交通手段の手配や宿泊施設の手配を行っている。もともとは国内向けにお遍路のバスツアーを行っていたが、外国人向けにもツアー展開するようになった。

 

オーダーメードツアーに四国遍路を組み込む外国人富裕層

同社では、欧州の富裕層向けに「Discover Shikoku」という海外現地の旅行会社向けのサイトを立ち上げ、お遍路を含め四国の伝統文化や自然を中心に情報発信をしている。

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担当者によると、八十八カ所全てのお寺をまわろうと考える富裕層の方はほとんどいないそうだ。ただし、「旅行日程の中に、お遍路のお寺を組み込んで欲しい」というリクエストは時々受けるという。もっとも、富裕層の方々は、好みも人によって異なるため、要望に応じたオーダーメードのツアーを造成している。例えば、自然やトレッキングが好きな人にはハイキングルートに追加して山奥のお遍路寺をめぐるコースを用意し、日本文化に興味のある人には、徳島の祖谷にある古民家宿を手配して、宿泊施設を起点としたお遍路寺を手配する、といったような具合だ。

さらに、欧米では、そもそも「四国」のことを知っている人がまだ少ない。その認知度を高めることが先決だと担当者は口調を強める。四国全体の認知度向上のツールとして「お遍路」があると、プロモーションの際にはわかりやすいコンテンツだという。

まだまだ四国遍路に対する認知度が低いとはいえ、一部の巡礼好きな外国人による「四国遍路」が、着実に増えているのも事実だ。こういった巡礼好きのファンを大切に育て、四国全体のプロモーションにつなげることが、カギを握ると言えそうだ。

ここまで、熊野古道と四国遍路のインバウンド事例を取り上げてきた。次回は、山形県出羽三山の山伏修行の取り組みをご紹介する。

(次号へ続く)

 

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