インバウンド特集レポート

外国人が本格的な修行体験⁉ ~多様なニーズに対応すべく、ディープなインバウンドツアー造成が進む~

2017.11.29

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観光コンテンツとして外国人の注目を集め、重要な役割を担う聖地巡礼。これまで、和歌山県熊野古道、四国遍路の取り組みを紹介してきた。驚くべきごとに、日本人にもなじみが薄い修行体験が、かなり少数ではあるものの外国人旅行者の注目を集めている。Part3(本編)では、今年初めて海外の旅行会社との商談に挑戦した出羽三山の山伏修行、江戸時代に成立した民衆信仰の中で行われた「富士講」について紹介する。

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過去の記事:
Part1:日本の聖地巡礼に注目する訪日外国人 ~わずか5年で外国人が25倍になった熊野古道の取り組み~
Part2:日本の聖地巡礼に注目する訪日外国人 ~欧米富裕層も訪れる四国のお遍路巡り~

 

知り合いのつてや口コミを通じて、外国人が山伏修行を体験

六世紀に開山したといわれる出羽三山は、山形県の中央にそびえる月山・羽黒山・湯殿山の総称だ。出羽三山の山伏が進行する羽黒修験道は1400年の歴史があり、時代とともに変化をしてきた。仏教、神道、自然崇拝など、様々な要素が入り混じっている。

2017年9月、外国人向けに山伏修行の体験プログラムを販売する「株式会社めぐるん」は、トラベルマート(海外の訪日旅行を取扱う旅行会社等と日本全国の観光関係事業者が集まって行う商談会)に初めて参加した。商談会では、海外の旅行会社からは、「まさにこのような体験プログラムを探していた」という、ポジティブな意見を多くいただいたという。

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ところでなぜ、このような東北の山奥で、外国人向けのプログラムが始まったのだろうか。ただでさえ、日本人にすらなじみのない修行体験、海外への広報活動を一切行っていない状況のなか、ここ7年間で20名もの外国人の参加実績があったそうだ。PRを一切していなかったため、修行に来た外国人は全員、知り合いのつてや口コミで来る人ばかりだった。そこで、株式会社めぐるんが、山伏修行を外国人向けの体験プログラムとして売り出すことが可能か、まずは山伏修行の先導役として豊富な経験を持つ星野文紘先達による指導の下、2015年に外国人へのトライアル販売を始めた。

 

モニターツアーを生かして外国人向けの体験プログラムを造成

もともと、同社は街づくりを通して地域活性化を目指して設立した会社で、地域の素材をいかした地域活性化の事業の一つとして「山伏修行」に着目した。まずはじめに、フェイスブックに大聖坊山伏修行のページを立ち上げ、英語で情報を発信したところ、さっそく2人の外国人の参加申し込みがあった。実際に修行に参加したあとのヒアリング結果によると、満足度が高いことがわかった。それを受けて、2016年に外国人向けに売り出すことを決め、2017年から外国人向け大聖坊山伏修行「Yamabushido」プログラムが本格的にスタートした。

修行のプログラムは、知識伝達型や情報共有型ではない。つまり「理解」ではなく「感じる」ことに重きを置いている。身を持って感じた「経験」こそが、修行となる。だから多言語のパンフレットだけでは得られない「経験」そのものに満足を感じるからだろう。

山伏修行とは、日本の古来より伝わる生まれ変わりを知る術であり、死と生であり、自然とのつながりを感じる場である。「死生観」というテーマは、国籍を問わない共通の問題意識だからこそ、理屈ではなく、体験で何かを感じとっていくのだろう。

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株式会社めぐるんの担当者は、来年に向けて外国人向け山伏修行の海外PRを加速させたいと言う。プログラムが「本格的な修行体験」だからこそ、誰にでも広く告知したいというわけではなく、山伏修行を通した厳しい修行体験を求めている方に、情報がしっかり届くようにすることが、当面の課題だと言う。

 

3泊4日、海抜ゼロメートルからの本格的な富士登山がツアーに

「講」と呼ばれるお参りのための組織が江戸時代に形成され、全国各地に存在していた。その中で、富士山を信仰する団体や、その団体で実際に富士山にお参りに行くことを「富士講」と呼んでいた。
当時は平和な時代であったにもかかわらず、一般庶民による旅行は禁じられていたが、「お参り」に関しては認められていたため、全国各地で「講」と呼ばれる結社をを形成し、団体で参詣していた。

かつて江戸時代に、富士講が実際に使用した登山道を再現するという取り組みが、3年前から静岡県富士市で始まっている。

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富士市富士山・観光課では、その富士登山を商品化、すでに海外からのモニターツアーを受け入れている。コース内容は、富士山から50キロ近く離れた富士市の駿河湾沿いに位置する田子の浦海岸の塩水で身を清め、石を拾い、市内にある富士塚へいき、安全祈願をしてその石を奉納する。そのうえで、江戸時代から利用されている登山道で頂上を目指すというものだ。

seichijunrei_11登山道には、もともと富士講で使われていた村山道と村山古道という二つのルートがある。残念ながら、その登山道は、当時のまま残っていない。これを忠実に再現するには、莫大な費用と時間がかかるため、村山道の現代版とも言えるコースを富士市富士山・観光課が作った。

登山プランは、海岸ゼロメートルから登っていく3泊4日のコースだ。地元でもこのプロジェクトへの認知度があがってきており、近隣住民の有志が、現代版富士講をもてなそうという動きが出てきた。登山ザックを背負った人を見かけたら、お茶のサービスやトイレの貸出を率先して行うようになってきたのだ。

 

海外メディアへの露出を機に問合せ急増! 香港からモニターツアーも

今年になってから突然、富士市富士山・観光課への海外からの問い合わせが増えてきたそうだ。今年、海外メディアに取り上げられた影響とみられている。日本一高い山「富士山」は海外での認知度も高く、江戸時代のスタイルを再現して登る富士講が、わかりやすく、かつインパクトがあるのだろう。

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富士市の担当者によると、今年の夏、モニターツアーで香港からの登山客を案内した。実際に最初に海岸で身を清めているときは、はるか遠くに富士山の頂上が見え、そのあまりの遠さに途方に暮れ、無謀ではないかと、プレッシャーに押しつぶされそうなる。しかしながら、3泊目に泊まる富士山6合目の山小屋から、出発地点の田子の浦がはっきりと見えたときの感動はひとしおだという。さらに富士山頂から海を臨むときは達成感に包まれ、モニターツアーに参加した香港の方の目には、涙が込み上げていたそうだ。

かつで富士講が行われた江戸時代には、現在のような十分な登山用品がないなかで、富士山頂まで登山していたのだ。それを追体験することにより、富士信仰に想いを馳せることができる。富士市富士山・観光課では、2018年の登山シーズンに向け、ツアー造成と販売に興味がある海外現地の旅行会社との商談を進めている。今後は、健脚向けの2泊3日コースを商品化するなど、富士講体験ツアーのコースの充実を図っていきたいと担当者は言う。

 

このように、日本には全国各地に修行の場があり、紹介しきれないほど他にもたくさんある。例えば、滝に打たれる修行「滝行」もいまだに存在する。これらの修行体験を外国人向けに商品化する場合、どういったストーリーを彼らに見せていくかが、カギになる。外国人用に、いかに商品を磨きあげるのか、今後の聖地巡礼の商品開発に注視していきたい。

(了)

Text:此松武彦

 

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